公開日: 13.08.2021
また聞けば、侍従の大納言の御 (み) むすめ、亡くなりたまひぬなり。殿の中将の思 (おぼ) し嘆くなるさま、わがものの悲しき折なれば、いみじくあはれなりと聞く。上り着きたりしとき、「これ手本にせよ」とて、この姫君の御手 (おほんて) を取らせたりしを、「さ夜ふけて寝覚めざりせば」など書きて、「鳥辺 (とりべ) 山谷に煙 (けぶり) の燃え立たばはかなく見えしわれと知らなむ」と、言ひ知らずをかしげに、めでたく書きたまへるを見て、いとど涙を添へまさる。. 門出したる所は、めぐりなどもなくて、かりそめの茅屋(かやや)の、蔀 しとみ などもなし。簾かけ、幕など引きたり。南ははるかに野のかた見やらる。東(ひむがし)、西は海ちかくて、いとおもしろし。夕霧立ちわたりて、いみじうをかしければ、朝寝 あさい などもせず、方々(かたがた)見つつ、ここをたちなむことも、あはれに悲しきに、同じ月の十五日、雨かきくらし降る(ふる)に、境(さかひ)を出でて(いでて)、下総(しもづさ)の国のいかたといふ所にとまりぬ。庵(いほ)なども浮きぬばかりに雨降りなどすれば、おそろしくていも寝られず。野中に丘だちたる所に、ただ木ぞ三つ立てる。その日は雨にぬれたる物ども干し(ほし)、国にたち遅れ(をくれ)たる人々まつとて、そこに日を暮らしつ。.
門出したる所は、めぐりなどもなくて、かりそめの茅屋(かやや)の、蔀 しとみ などもなし。簾かけ、幕など引きたり。南ははるかに野のかた見やらる。東(ひむがし)、西は海ちかくて、いとおもしろし。夕霧立ちわたりて、いみじうをかしければ、朝寝 あさい などもせず、方々(かたがた)見つつ、ここをたちなむことも、あはれに悲しきに、同じ月の十五日、雨かきくらし降る(ふる)に、境(さかひ)を出でて(いでて)、下総(しもづさ)の国のいかたといふ所にとまりぬ。庵(いほ)なども浮きぬばかりに雨降りなどすれば、おそろしくていも寝られず。野中に丘だちたる所に、ただ木ぞ三つ立てる。その日は雨にぬれたる物ども干し(ほし)、国にたち遅れ(をくれ)たる人々まつとて、そこに日を暮らしつ。.
案内メニュー 個人用ツール ログインしていません このIPとの会話 投稿記録 アカウント作成 ログイン. 出発して移った所(=いまたちの家)は、囲いなども無くて、間に合わせの茅ぶき(かやぶき)の家で、蔀戸なども無い。簾(すだれ)をかけ、幕などを引きめぐらしてある。南ははるか遠くの野原のほうまで見わたせる。東と西は海が近くて、とても(景色が)すばらしい。 夕霧が一面に立ち込めて、とても趣きがあるので、朝寝坊などもしないで、あちらこちらを見て(回って)いるうちに、ここを立ち去ってしまうこともしみじみと悲しいが、同じ月の十五日、雨が激しく、周りを暗くするほどに降ったが、国境を出て、下総の国のいかたという所に泊まった。仮小屋なども浮いてしまいそうと思われるほどに(激しく)雨が降るので、恐ろしくて寝ようにも寝られない。野中に丘のように高くなった所に、ただ木が三本だけ立っている。その日(十六日)は、雨にぬれてしまったものを干し、(上総の)国に(残って)出発が遅れている人々を待つということで、そこで一日を過ごした。.
My profile Author : 花野あき HananoAki 国語教師。趣味は語学、読書、お菓子作り。. 当ブログは、高校国語の指導案を紹介し、忙しく教材研究の時間の確保もままならない教師のかたがたへささやかな助力を提供するという目的によって作られています。 3. 刀剣乱舞 ステータス 最大値 月影 あはれに見し乳母も、三月一日に亡くなりぬ。 せむかたなく思ひ嘆くに、物語のゆかしさもおぼえずなりぬ。いみじく泣き暮らして見いだしたれば、 夕日のいと華やかに差したるに、桜の花残りなく散り乱る。.
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十七日のつとめて、立つ。昔、下総(しもつさ)の国に、まのの長(てう)といふ人住みけり。 ひき布を千(ち)むら、万(よろづ)むら織らせ、さらさせけるが家の跡とて、深き川を舟にて渡る。昔の門(かど)の柱のまだ残りたるとて、大きなる柱、川の中に四つ立てり。人々歌よむを聞きて、心の内に、.
コメント: : 0 カテゴリ : 古典/古文 テーマ : 学習指導案 ジャンル : 学校・教育. その(治安元年の)春、(疫病が流行して、)世の中が大変に騒がしく、(私の乳母も死んだ、)松里の渡し場の 月の光に照らし出された姿 をしみじみと見た乳母も、三月一日に亡くなった。 (私は)どうしようもなく、嘆き悲しんでいると、物語を読みたいという気持ちも思わなくなってしまった。 ひどく泣き暮らして、(ふと、外を)眺めたところ、夕日がたいそう華やかに差している所に、桜の花が余すところなく散り乱れている。 散りゆく花も、また再びやってくる春には見ることもできるだろう。(しかし、)そのまま別れてしまった人(=乳母)は、二度と見ることができないないので、(とても)恋しい。 また聞くところによると、侍従の大納言の姫君が、お亡くなりになったそうだ。(姫君の夫である)殿の中将がお嘆きになるようすは、私も、もに悲しい時なので、とても気の毒と(思って)聞く。(昔、私が)京に上り着いたとき、(ある人が)「これを手本にしなさい。」と言って、この姫君のご筆跡を(私に)くれたが、(それには)「夜が更けて眠りから目覚めなかったならば」などと(歌が)書いてあり、(また、ご筆跡で)「鳥辺山の谷に煙が燃え立ったならば、 弱々しく 見えた私だと知ってほしい。」と(いう歌を)、何とも言えず趣深くすばらしく書いていらっしゃるのを見て、いっそう涙が増えた。.
ご利用の際の注意事項 ママルポッド mgs5. ブックの新規作成 PDF 形式でダウンロード 印刷用バージョン. はしるはしるわづかに見つつ、心も得ず、心もとなく思ふ源氏を、一の巻よりして、人も交じらず、几帳(きちやう)の内にうち伏して、引き出でつつ見る心地、后(きさき)の位も何にかはせむ。昼は日暮らし、夜は目の覚めたる限り、灯を近くともして、これを見るよりほかのことなければ、おのづからなどは、そらにおぼえ浮かぶを、いみじきことに思ふに、夢に、いと清げなる僧の、黄なる地の袈裟(けさ)着たるが来て、「法華経(ほけきやう)五の巻を、とく習へ。」と言ふと見れど、人にも語らず、習はむとも思ひかけず。物語のことをのみ心にしめて、われはこのごろわろきぞかし、盛りにならば、かたちも限りなくよく、髪もいみじく長くなりなむ、光(ひかる)の源氏の夕顔、 宇治の大将 の浮舟(うきふね)の女君のやうにこそあらめ、と思ひける心、 まづ いとはかなく、 あさまし 。.
6.
主人公の物語への思いが、「世の中に物語といふもののあんなるを、 いかで見ばや」から始まり、思いが高じて、「いとどゆかし」へ、 さらに、「いみじく心もとなきままに」薬師仏をつくるに至ったという 経緯を押さえる。 物語という、まだ見ぬ虚構の美しい世界にひたすら憧れる少女の熱い思いが この文章で描かれているのだと説明する。 この単元で出てくる敬語を、チェックさせる。 3.
案内メニュー 個人用ツール ログインしていません このIPとの会話 投稿記録 アカウント作成 ログイン. 全文を音読させ、その後でノートに筆写させる。 辞書で語句の意味を調べながら、口語訳することを、宿題とする。 〈第2時〜〉 本文読解 1.
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漢字の読みを確認する。 東路=あづまぢ 宵居=よひゐ 額=ぬか 九月=ながつき 上る=地方から、京の都へ行く。 *都が一番すぐれて高貴な土地という認識からきたことば。 「下る」は逆で、京から地方へ行くこと。 3. 東国のさらに奥地の上総の国で育った作者は、少女のころ、物語というものを知り、あこがれを抱いていく。だが、上総の地では、本を入手することが出来ない。読みたいという気持ちが、つのっていく。 作者は等身大の薬師仏を造り、本が読めるように拝んだりもした。. 指導案以外の文章などの著作物に関しても、すべて著作権は、ブログ管理者花野あきに帰属しています。 引用や借用、流用は一切お断り いたします。.
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いかなる所ぞと問へば、「これは、いにしへ竹芝といふ坂なり。国の人のありけるを、火たき屋の火たく衛士 (ゑじ) にさし奉りたりけるに、御前 (おまへ) の庭を掃くとて、『などや苦しき目を見るらむ。わが国に七つ三つ造り据ゑたる酒壺 (さかつぼ) に、さし渡したるひたえのひさごの、南風吹けば北になびき、北風吹けば南になびき、西吹けば東になびき、東吹けば西になびくを見で、かくてあるよ』と、ひとりごち、つぶやきけるを、その時、帝の御女 (おんむすめ) いみじうかしづかれたまふ、ただひとり御簾 (みす) のきはに立ちいでたまひて、柱によりかかりて御覧ずるに、このをのこのかくひとりごつを、いとあはれに、いかなるひさごの、いかになびくらむと、いみじうゆかしくおぼされければ、御簾を押し上げて、『あのをのこ、こち寄れ』と召しければ、かしこまりて高欄 (かうらん) のつらにまゐりたりければ、『言ひつること、いま一 (ひと) 返りわれに言ひて聞かせよ』と仰せられければ、酒壺のことを、いま一返り申しければ、『われ率 (ゐ) て行きて見せよ。さ言ふやうあり』と仰せられければ、かしこく恐ろしと思ひけれど、さるべきにやありけむ、負ひ奉りて下るに、論なく人追ひて来 (く) らむと思ひて、その夜、勢多 転スラ壁紙かっこいい の橋のもとに、この宮を据ゑ奉りて、勢多の橋を一間 (ひとま) ばかりこぼちて、それを飛び越えて、この宮をかき負ひ奉りて、七日七夜といふに、武蔵の国に行き着きにけり。.
その春、世の中いみじう騒がしうて、松里の渡りの 月影 あはれに見し乳母も、三月一日に亡くなりぬ。 せむかたなく思ひ嘆くに、物語のゆかしさもおぼえずなりぬ。いみじく泣き暮らして見いだしたれば、 夕日のいと華やかに差したるに、桜の花残りなく散り乱る。 散る花もまた来(こ)む春は見もやせむやがて別れし人ぞ悲しき また聞けば、侍従の大納言の御(み)むすめ、亡くなりたまひぬなり。殿の中将の思(おぼ)し嘆くなるさま、わがものの悲しき折なれば、いみじくあはれなりと聞く。上り着きたりしとき、「これ手本にせよ」とて、この姫君の御手(おほんて)を取らせたりしを、「さ夜ふけて寝覚めざりせば」など書きて、「鳥辺(とりべ)山谷に煙(けぶり)の燃え立たば はかなく 見えしわれと知らなむ」と、言ひ知らずをかしげに、めでたく書きたまへるを見て、 いとど 涙を添へまさる。.
このように、(私が)ずっとふさぎこんでいるので、(周囲が私の)心を慰めようと、気の毒に思って、母が、物語などを探し求めて見せてくださるので、本等に自然に慰められてていく。『源氏物語』の紫上(むらさきのうえ)の巻を見て、続きを見たいと思ったが、人に相談することなども出来ない。 (家の者は、)まだ誰も都になれていない頃なので、見つけることが出来ない。たいそう じれったく 、読みたいと思うので、「この『源氏物語』を第一巻から全部、読ませてください。」と心の中で祈る。 親が太秦(うずまさ)の広隆寺(こうりゅうじ)に参詣なさったときも、他の(祈る)事は無く、この事(=源氏物語を読ませてください、という事)だけを申して、(私たち家族が寺から)出ると、この物語を読み終えてしまおうかと思ったが、(本は)見つからなかった。 とても残念と思い嘆いているうちに、叔母である人が田舎から上京した所に(親が私を)行かせたところ、「とてもかわいらしく成長しなさったなあ。」などと、懐かしがり、珍しがって、(私が)帰るときに、「(おみやげに)何を差し上げましょうか。 実用的な 物は、 つまらない でしょう。(あなたが)ほしいと思ってらっしゃる物を差し上げましょう。」と言って、『源氏物語』の五十余巻を、木箱に入れたまま、また『在中将』(ざいちゅうじょう)・『とほぎみ』・『せり河』(せりかわ)・『しらら』・『あさうづ』などという物語を、一袋、取り入れて、(私が)もらって帰るときの気持ちのうれしさといったら、たいへんなものだった。.
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冒頭の「東路の道の果てよりも、なほ奥つ方に生ひ出でたる人」について、 ・「あづまぢの道の果てなる常陸帯のかごとばかりの会ひ見てしがな」 (紀友則、古今和歌集) という 古歌をふまえた書き出し であることを説明する。 「あづまぢの道の果て」= 常陸 ひたち 「東路の道の果てよりも、なほ奥つ方」= 上総 かずさ を示していることを説明し、これらの地名が、現在のどの都道府県に 位置するのか、地図で確認させる。 ・「東路の道の果てよりも、なほ奥つ方に生ひ出でたる人」=作者 であることを、教える。 作者自身を、「人」と、第3者のような書き方をしており、また、 京からとても離れた田舎に生まれ育って…と卑下しているところが、 物語風であると説明する。 5.
ご利用の際の注意事項 当blogの指導案をご利用の前に、必ずお読み下さい。. その(治安元年の)春、(疫病が流行して、)世の中が大変に騒がしく、(私の乳母も死んだ、)松里の渡し場の 月の光に照らし出された姿 をしみじみと見た乳母も、三月一日に亡くなった。 (私は)どうしようもなく、嘆き悲しんでいると、物語を読みたいという気持ちも思わなくなってしまった。 ひどく泣き暮らして、(ふと、外を)眺めたところ、夕日がたいそう華やかに差している所に、桜の花が余すところなく散り乱れている。 散りゆく花も、また再びやってくる春には見ることもできるだろう。(しかし、)そのまま別れてしまった人(=乳母)は、二度と見ることができないないので、(とても)恋しい。 また聞くところによると、侍従の大納言の姫君が、お亡くなりになったそうだ。(姫君の夫である)殿の中将がお嘆きになるようすは、私も、もに悲しい時なので、とても気の毒と(思って)聞く。(昔、私が)京に上り着いたとき、(ある人が)「これを手本にしなさい。」と言って、この姫君のご筆跡を(私に)くれたが、(それには)「夜が更けて眠りから目覚めなかったならば」などと(歌が)書いてあり、(また、ご筆跡で)「鳥辺山の谷に煙が燃え立ったならば、 弱々しく 見えた私だと知ってほしい。」と(いう歌を)、何とも言えず趣深くすばらしく書いていらっしゃるのを見て、いっそう涙が増えた。.